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Urban Naturalist Society

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<エッセイ>


日本野鳥の会発行
「野鳥」誌 
2009年3月号essay



<タイトル>


輝く瞳に出会いたい

吉田夏生


<本文>

 森林インストラクターの役割の一つにインタープリテーションがあります。
     
それは花や昆虫をただ説明するのではなく、見逃していた美しさや隠れている    
不思議に自分がまず感動し、それをうまく工夫して伝えることで相手にも
新鮮な気づきや感動を与えること、と言っていいでしょう。その時出会える
「キラキラ輝く瞳」が僕の活動の原動力です。以下、過去の体験の中から忘れがたい
       
思い出をいくつかご紹介しましょう。

 活動を始めたばかりの冬、横浜の三渓園で自然観察会を開いた時のことです。    
テーマはカモ。でも遠くに泳いでいるせいか子供達は「ゲームのほうが面白いよ!」と
退屈そう。そこで一人のヤンチャ坊主に双眼鏡を渡しました。
操作に慣れ、マガモにピントが合うと「すごい、きれい
!可愛い!
八倍の双眼鏡の中
は別世界。角度によって緑から紫に変わる鮮やかな頭の色、
力強く水を掻く脚。今まで何となく見ていた「ただの鳥」が、
「美しく不思議なマガモ」に変わった瞬間です。

 次は明治神宮での自然観察会。参加した子供達は全員すごい勉強家で
解説を始めるや一斉にノートを取り出しメモします。対象が野草でも野鳥でも
ひたすらメモするばかりでなかなか顔を上げません。
で、ちょっといたずらを仕掛けてやろうと思い、シラカシのどんぐりを拾い上げた男の子に
囁きました。「ハカマをつまんでエイッと力を入れてごらん。どんぐりがピュッと飛び出すよ
!」。     
さらに、「みんなで撃ち合うと面白いぞ」。途端に彼らはメモを止めて
ガキ大将に変身!ワイワイキャーキャー撃ち合いを始めました。
(やっぱり子供はのびのび遊ばなくちゃ!)。

大切なのは、知る前にまず感じること。
我々大人は子供達を少し急がせているのではないでしょうか。

  そして時々開くピュア・ネイチャークラフト教室。
一般的なクラフトとは違って、拾い集めた木の実や種、さや、つる、小枝などを
加工せず色を塗らず、自然の形や質感をそのまま活かして作る吉田流オリジナルです。
素材は約百種類。何を作っても自由。といってもすぐ手が動くわけではなく、
まずはじっくり見つめながら触わりながら想像を広げてもらいます。

やがて一言のヒントをきっかけにアイデアが湧き、
何の変哲もないコナラの枝先が羊の脚に、オニグルミが蛙の顔に、
オニユリの実のさやが貴婦人のスカートになったりして
見たことのない作品のでき上がりです。準備の疲れを忘れさせてくれるのは
「ほら、できたよ
!」と駆け寄ってくる得意げな顔、顔。

ちなみに子供は発想が豊かと
言われますが、情報に囲まれて育った今の子供は
三年生くらいになると大人とそう変わりません。新鮮な発想で驚かせてくれるのは幼児か、
むしろ七〇代以上です
(多くが女性)。家でお婆ちゃんと呼ばれている人が、
孫より童心をいっ
ぱい持っているなんて楽しい発見ですが、
それは幼時に豊かな自然を体験しているからかもしれません。

これからも五感で自然に触れ、感動でキラキラと輝く瞳にもっともっと出会いたい。
そんな思いを込めてインタープリテーションを続けていくつもりです。


よしだ・なつお/森林インストラクター

     中央大学文学部哲学科卒。1998年森林インストラクター資格を取得、活動を始める。     
現在「身近な自然に驚こう」をテーマにアーバン・ナチュラリスト協会を主宰。
神奈川県内と京都市の里山や公園等で自然観察会、自然遊び体験教室等を企画。

 

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